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探偵事務所など一生縁がないと思っていた。国道沿いに掲げられている「浮気調査致します」というある探偵事務所の看板を、こんな場所に何て下品なの、と軽蔑していたくらいだ。まさか自分が利用することになるとは。
隆子が選んだのは、市の外れにある探偵事務所だった。添田と名乗る中年の探偵は元刑事なのだという。隆子はぽつりぽつりと経緯を話した。添田は頷きながら言った。
「依頼されれば私どもは調査致します。けれど女性の直感というのは、当たる確率はかなり高いんですよ。特に奥さんの勘はね」
舞う埃さえ見える、古いビルの寒々しい空間の中で、隆子は惨めだった。
そうしてもたらされた結果。隆子の勘は当たっていた。女が真の会社近くのマンションに住んでいること。元々真とは中学時代の同級生だということ。離婚歴があること。約二年前に再会し関係を持つようになったこと。そして二か月前に男の子を出産したこと。
差し出された証拠写真の数々。女の部屋に入って行く真。窓辺の二人。赤ん坊の世話をする女。赤ん坊を抱く真。真の優しい表情。
溝口真未。色白で目が大きな美人。看護師で、今は育児休暇を取得中とのことだ。
追加で依頼した部屋の盗聴結果は、とても冷静に聞いていられるものではなかった。
「ねえ、離婚してくれるんでしょ、いつ?」
「もうちょっと待って」
「本当に離婚できるの? 待ちくたびれたわ」
「もうちょっとだ。必ず離婚する。そしたら親子三人、一緒に暮らせる。お袋は、最初は驚くかもしれないけどすぐに認めるさ。だって孫を欲しがってたから。離婚して若いのもらったらどうだって俺に言ったくらいだぜ。まあ、君は妻より歳上だけど孫を産んでくれた。この子の顔見たら、お袋、絶対メロメロになるさ。何せ目元が俺にそっくりだろう」
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