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今も忘れない
◇
弱い雨が降る山中。そこは忘れ去られた神様が残る土地。
写真家であり画家としても知られる館和田斗が訪れたのは滋賀県のとある山だった。
雨に濡れ、草木の豊潤な香りが満ちた山道を館和田は歩いて渡る。
彼が首から下げるのは、中学生の頃から十年以上の付き合いのあるフルサイズモデルの一眼レフカメラ。時折足を止めては、レインカバーで覆い首から下げたそれを構える。雨水が撃つ葉の合奏に満ち、葉から跳ねた水が白くぼかす森の神秘的な演出を切り取ってフィルムに収めた。雨粒の着いたレンズを拭ってシャッターを切るまでの操作に迷いは無い。雨天での撮影があることも理解していたため、若い頃は山中での撮影を意識して傘も差さずに街中を練り歩いて写真を撮りに行ったものだった。
「まだ、距離があるなあ」
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