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商人再見(しょうにんさいけん)
ルー・スージンがいない。そのことは遼原(りょうげん)の町にとって大きな意味を持っているらしかった。
世の中はまだ秋になったばかりだというのに、彼がいなくなった後の遼原ときたら、もう冬が始まったかのように寒々しい雰囲気が漂っていた。堅牢ではないものの、まがりなりにも石造りの城郭に囲まれた町は、家屋や商店の数に恵まれ、往来には常に人の姿がある。が、人々、とりわけ女性達の表情はどことなく冴えなかった。ルーの人気にも我関せずの態度でいたチャン自身でさえ、物足りなさのようなものを覚えていることを認めざるを得なかった。
ルーはやり手の雑貨商人だ。ボサッとした黒髪の野暮ったさに反し、笑顔と話術を巧みに用いて、瞬く間に品物を売りさばいてしまう。顔がいいからだ、とひがむ輩もいたが、その実力は素直に評価するべきだろう。ただし、書物商をやっているチャンが彼のやり方を真似したいかというと、頼まれてもお断りである。
で、その人気商人はどこへ消えたのか。ルーが遼原、あるいはこの国の中心地・永都(えいと)に姿を現さなくなって、もう二月になる。誰も理由を知らない。この国の商人はあちらこちらへ足を運んで仕入れや販売をするのが常だが、皆、一つや二つは拠点となる町を持っている。遼原はここ一年、ルーの拠点だったはずだ。それなのになぜ――。
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