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「マル、帰ろう……。俺がちゃんと言わなかったのも悪いんだ」
「横川……」
「タテ、ごめん。俺……すんのが……もう、キツイんだわ……」
「お前……ずっと、されたかったって事か……?」
大学時代、初めて横川と寝たのはどんな状況だっただろうか。
置いてけぼりを食らった立脇は、前髪からしとしと滴る水に構う事なく、呆然と横川と円井が座っていた向かいの席を見ていた。
知り合ったのが十八の時で、十九の時にはもうそう言う関係になっていた。
童顔で華奢な立脇は生粋のネコで、女っぽいと言われる事がゲイだとバレそうで疎ましくもあったが、同類にはウケが良かった。
されたいの――――?
そうだ。横川は一番最初にそう聞いた。
まだ男相手に経験のなかった立脇は、コクリと頷いた自分を思い出した。
「じゃあ何で、あんな事聞くんだよ……。タチだと思うに決まってんだろうが……」
立脇は無性に腹が立って来て、それは何も言わなかった横川や、加害者の癖に水をぶっかけて帰った円井にではなく、十数年もの間、本当の横川の事を知らずにいた自分にだった。
自分がネコだから分かる。挿入すると言う行為そのものに嫌悪を感じる。
だから立脇は若い時、女性と一緒になろうと思っても、結婚には至れなかった。
横川が挿れる事に過度のストレスを感じていたとしたら、横川との情事は全て自己満足で終わっていたと言う事だ。
「ないわぁー……」
いい歳した男が、ベッドの中で相手がどう思っているかに気付く事なく、強制労働させていたと言う衝撃は、立脇を容赦なく断罪して来る。
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