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結局、横川は浮気相手である円井と上手く行っているらしい。
立脇の横で面倒臭そうな横川は、一瞬口を噤んで躊躇いがちに口を開いた。
「俺がお前に言えなかったのは……好きだったからだよ」
「え……」
「正直辛かったし、した後ちょっとおかしくなってたけど、したくないわけじゃなかった。お前に触れなくなるくらいなら、我慢する方がずっといいって思ってたんだから……」
「……うーわ、今更過ぎる。何それ、今言うとか意味なくねぇ?」
「ずっと決心がつかなくて、別れる理由が欲しくてマルに抱いてくれって頼んだ。そうすればお前の隣にいてはいけない理由が出来るだろ……? マルはそれを全部承知で抱いてくれたんだ」
「浮気する前に俺に言えっつー話だよ!」
「だからっ! 最後まで聞けよっ!」
「なっ、何だよ!?」
「そいつもさ……そうじゃねぇの? って話だよ」
好きだから、一緒に眠る事が出来ない。その理由も明かせない。
もしそうだったとして、その事をまたずっと知らずにいなければならないのだろうかと、立脇は一抹の不安を感じてしまう。
嫌な事を強要する事は出来ないけれど、納得のいく理由もなしに一緒に寝ると言う幸福を手放すのも損をしている気になる。
「聞いてみれば? 聞いたら案外大した理由ないかもしれねぇじゃん。寝相が悪いとか、歯ぎしりが酷いとかさ……」
「付き合ってもないのに……聞けるわけねぇ……」
「でも、好きなんだろ? そいつの事がさ」
「……フラれたらこえーもん。俺もう三十路よ? あいつ、二十歳よ? オッサンだって思われてるかもしんねぇのにさぁ……」
「まぁ、彼氏出来たら奢ってやるよ。お祝いにさ」
立脇は今更になって横川に甘えていた自分を省みる。
いつだって駄々を捏ねるのは自分で、グダグダと管を捲いてはベッドで甘やかされていた。
だからこそ、あれが望まない事だったと知った衝撃は大きかった。
「お前……いい男だよな」
「何だよ? タテが俺を褒めるとか、気持ちわりぃな」
鈍感な自分がナナメを傷つけずに事の真相を聞き出すなんて事は、無理がある。
今の関係じゃ、もう会いたくないと思われてしまったら、繋がりはたちどころに消えてしまう。
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