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「会いてぇな……でも、会って何言うんだよ……俺」
屋上の夜気は身震いするほど冷たくて、その風が目尻に溜まった哀しみを攫って行く。
花弁が舞う様に上に向かって舞う涙は、一体誰の為の物だろう。
もしあれがナナメの事だとして、ナナメは同情されたいわけでもないだろうし、苦手な事をしない様にして、ちゃんと折り合いを付けて生活している。
誰かと同衾する事が幸せだと思っているのは、あくまで立脇の経験からくる価値観だ。
〉お前もう帰っていいよ。マルに手伝って貰うから。
横川からそんなラインが届いて、立脇はもう一度ギュッと瞼を瞑る。
人の温もりを幸せに感じられないなんて、幸福の半分を放棄している様な物だ。
それは人生七十年と仮定して、残りの五十年を酷く長く感じるだろう。
一人が悪いんじゃない。一人暮らしのヤツなんていくらでもいる。
老齢になって孤独死する人だって沢山いる。
でも、一人であると言う事と、独りは違う。
若い時の残像や、その場にいなくなった人の残したものだけで、得られる幸福がある。
ずっと一人なのと、一人になったのでは、全く価値が違う。
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