タテヨコナナメの恋愛事情。

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タテヨコナナメの恋愛事情。

 三十年生きて来て、卓の向かいからお冷をぶっかけられると言う事がリアルに再現される事を初めて知った。 「ヨコちゃんが何でこんな事したのか! あんたはそれを、よーっく考えるべきでしょうがっ!」  大学で知り合った男と一時期恋人関係にあった立脇尤利(たてわきゆうり)は、一度は別れたのだが、会社を転々としていた横川孝臣と今の会社で遭遇し、また何となく付き合う事になって早三年が過ぎようとしていた。 「いや、円井(まるい)さんでしたっけ? 浮気されたのはこっちなんですけど……」  立脇はお冷をぶっかけて来たアイドルのような顔をした男に、そう問いかける。  新調したばかりのスーツが台無しだ。  テーブルの上のオテフキを使って、取りあえず顔を拭いた。 「横川、お前が俺に謝るべきだろう? 裏切った挙句、謝罪もなく終るつもりか? 俺達はそんなに薄っぺらい関係だったか?」 「……立脇は都合よくヤれたら俺じゃ無くても良かっただろ? 使い慣れた箸とか、気に入ってる歯ブラシとか、お前にとって俺はその程度だっただろ?」 「な、なんっ……」 「ヨコちゃんは! 生粋のネコちゃんなの! なのにあんたは、そんな事も知らないでタチばっかりやらせてたんでしょ!? ネコちゃんがタチやるのだって、平気なヤツもいれば気がおかしくなるヤツだっているのよ! それをヨコちゃんはずっと我慢してっ! あんたの為にっ!」  円井は周りを気にする事なくそう言い放って、最後はもう言葉にならないとばかりに泣き出した。
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