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部活には所属せず、基本的には放課後になるとすぐに学校を出ていた。けれど雨の日だけは他の生徒と帰り道が被るのが嫌で、なんとなく図書室で時間を潰していたのだ。そうすると、図書室にはいつも彼女がいた。先にいたり、遅れて現れたり、帰る時間もばらばらだったけれど、雨の日に彼女の姿を見ない日はなかった。彼女に気付いてからは、なんとなく宿題やら古典の文庫本やらで優等生然りの振る舞いをしてしまっていた。話しかけたことは一度もなく、分かっていたことは少なかった。上履きの色が同じ赤なので一年生ということと、肩までとどく髪が毎回違う髪型をしているということくらい。
でも、そのくらいのことが分かるくらいには、彼女のことが気になっていた。
だから二年生になってクラスが一緒になったことは神様に感謝したし、前後の席ですぐに仲良くなれたことも嬉しかった。二年生になってからは放課後が雨だと、「今日も行くの?」なんて聞いて、二人で一緒に図書室に行っていた。
そして、とある秋の日が来た。修学旅行が終わって、すぐのことだった。
その日はまるで夏の夕立の様に、本当に急に天気が崩れた。ホームルーム後の一〇分程度の掃除の時間の間に、どこからともなく黒い雲がやって来たのだった。
「さっきまであんなに晴れてたのにな」
机の中の教科書をバックにしまいながら、おれは言った。図書室に誘う前の、会話の切り口だった。
「そうだね。びっくりだよ」
「ほんと、やんなっちゃうよな。わざわざ帰りに雨なんて迷惑な話」
我ながら、嫌になっているというにはずいぶんと明るい口調だったと思う。前の席で同じく帰り支度をしていた彼女は、その言葉をどう受け取ったのだろう。
「そう?」
彼女は疑問符を浮かべて、視線を窓の外へ滑らせた。
「私は、嬉しいよ。だって、稲見と一緒にいられるから」
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