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放課後の雨
六限目に曇り出した空は、放課後を待たずに降り始めた。ゲリラ豪雨というほど強くはないが、生徒たちの帰途には影響を与えるだろう。廊下の窓から見えるグラウンドには、今日はどこの部活の生徒の姿もない。
「あんな晴れてたのに、帰りに限って雨だもんねー」
「ほんとないわー」
向かいから歩いて来ていた女子生徒たちの言葉に、自然と顔を向けていた。
「あ、先生さよならー」
「おう、気をつけて帰れよ」
手まで振る生徒に軽く答えてその背中を見送ると、また外を眺める。
『さっきまであんなに晴れてたのにな』
もう一二年も前の自分の言葉が、頭の中で再生される。
『ほんと、やんなっちゃうよな』
口から流れ出たその言葉は、思っていることとは正反対だった。ただありきたりな、普通の言葉を考えて言っただけ。
『そう?』
けれど彼女は、それに疑問符で返してきた。
『私は、嬉しいよ。だって――』
前の席に座ったままの彼女は窓の外を眺めながら言っていて、表情はよく分からなかった。
でもあの言葉を、今も忘れられない。
「あ、雨の人」
二年生になって初の登校日。前の席の女子に最初に言われた言葉がそれだった。
なんだそれ、とは思わなかった。
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