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いまでも目を閉じれば、その姿は瞼の裏に鮮烈に焼き付いている。
強大な体躯に、隻翼であってもなお巨大な翼。
触れるすべてを容易く裂いてしまいそうな爪牙。
その口内から放たれる炎の吐息は空すら焼き。
ただでさえ硬い鱗が全身を覆う上に魔法防護も重なり。
意思ある自然災害、空より墜ちたる破滅の使者。
そのドラゴンは、とても美しかった。
元々は人間の生息域と、ドラゴンの縄張りが被ってしまったがゆえの悲劇。
人間の王は危険なドラゴンを討伐して人民の安全を確保するために兵を挙げ、ドラゴンは自分の縄張りを守るために迎え撃った。
言うなればただの生存競争。
その初戦は人間側の惨敗だった。
元々弱き存在である人間の武器は、知恵と数だ。数を集め、策を練り、どんな強敵にも打ち勝って生息域を広げてきた。
だがその強者の一角であるドラゴンの強さは、いくら数を集めたところで、策を練ったところで、乗り越えられる強さではなかった。
ドラゴンは賢い。
古の時代より生きていると言われるドラゴンには、人間の小賢しい知恵や魔法は歯が立たなかった。知恵を絞って策を張っても見破られ、突破されてしまう。
いくらアリが石を積み上げようと、像の前には踏みつぶされてしまうのと同じだ。
ゆえに、人間がドラゴンに勝つためには、像に匹敵しうるアリが必要だった。
それが俺、勇者と呼ばれる存在だ。
人を助けるために世界を旅していた俺は、その国の王に頼まれてドラゴンとの一騎打ちに望んだ。先祖代々伝わる宝剣、鎧、盾、世界各地で貰った様々な道具を携え、すべての力を振るって戦った。
それでもドラゴンはなお強く、決着がつかないまま三日三晩戦い続けた。
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