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そして、二度と見ることもなかった。
ドラゴンと交渉をして、人間の国に戻った俺はドラゴンとのやり取りを王に報告し、ドラゴンを倒せるようになるために再度世界を旅した。
幾千幾万の戦いを乗り越え、あのドラゴンにも負けない実力を身につけた。
そしてその国に戻った俺が見たのは、あのドラゴンが討ち取られ、無残に屍をさらしている光景だった。
国の王は俺がドラゴンと交わした「他の人間に手を出さない」という約束を悪用したのだ。ドラゴンは約束を守った。約束を破り、縄張りに侵入した国王軍に対し、攻撃しなかった。 国王軍は入れ替わり立ち替わりドラゴンに向けて攻撃を仕掛け続け、丸々一月かけてドラゴンの魔力切れを引き起こしたのだ。
そんなことは俺との約束がなければ出来なかった。攻撃さえ出来れば、国王軍など吐息のひとつで粉砕できたからだ。
俺が戻ってきた時には全てが終わっていて、ドラゴンの亡骸は全て国のいたるところで活用されていた。
怒りに駆られた俺は、ドラゴンへの弔いとしてその国を滅ぼした。なるべく無関係な人間は逃すように努力はしたが、結局のところドラゴンの恩恵を受けていたのは誰もが同じで、実に国の半数以上を殺すことになった。
以来、俺はドラゴンの縄張りを受け継いで守っている。それがドラゴンへの罪滅ぼしのつもりだった。
たまに人間が訪れて来るが、挑んで来る者は容赦なく斬った。
交渉してこようとしてくる者もいたが、ドラゴンと交わした約束を戒めに、俺が交渉を受けることはなかった。
こうして俺は――勇者は、人間の敵になったのだ。
おわり
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