母さんの言葉

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母さんの言葉

「――……あなたが、一番大切なのよ」  そんな母さんの言葉を、未だに覚えている。  言われた時は、とても嬉しかった。  一人っ子だった僕は、いつも母さんに甘えていた。母さんはいつも、「仕方ないわね」と言いながら、笑っていた。  二人で行った夏祭り。二人で行ったレストラン。二人で行った映画館。夏の暑い日に、先を行く母さんを追いかけた山間の畦道……。  思い出せば、いつもそこには母さんがいた。  いつも僕に、微笑んでいてくれた。  ……でも僕は、何も知らなかった。  その笑顔の影で、母さんは追い込まれていたんだ。きっと父さんが、母さんを追い込んでいたんだ。でも僕は何も知らなくて、何も見ていなくて、それが、とても悔しかった。悲しかった。  そして身が震えるような寒い雪の夜、僕は母さんを助けようとした。  一番大切だからこそ、助けたかった。  ……でも、遅かったみたいだ。  母さんは、家を出ていった。  許して――。  母さんが最後に言った言葉は、今でも忘れない。  父さんに理由を聞こうとしたけど、もう遅かった。父さんは何も答えてくれない。知らぬ顔して横になる父さんに、心底腹が立った。  でも、僕にはそれ以上どうすることも出来なかった……。
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