隠したハート

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隠したハート

 同窓会に呼ばれた。十年ぶりに母校の中学校へ帰ってくる。皆が集まる前に、あの頃の思い出を確認するため美術室へやってきた。  春の日差しが差し込む教室の床の上に小さな消しゴムが落ちていた。拾い上げケースを外すとそこに晴人と書かれた名前を見つけた。  まだこんなことをやっている子がいるんだ。微笑みながら壁に掛けられた小さな版画を見上げる。十五センチ角程の青色の版画。美術部員、皆で作った卒業制作だ。  まだあったんだ。良かった。拾った消しゴムを机に置き思い出に浸る。  私はよこしまな人間だった。絵が上手くなるための美術部員ではなく、片思いの相手に近づくためだけに放課後部室で遊んでいた。  そのくせ告白する勇気なんてなかった。微かな抵抗と言えば消しゴムの裏に藤本の名前を書き込むことぐらい。誰にもばれることなく消しゴムを使い切ることができれば両思いになれるという小学生の頃に流行ったおまじないを本気になって信じていた。  だけど消しゴムなんてそう簡単に減るものじゃない。私はオリジナルアートと称し、クロッキー帳を6Bの鉛筆で真っ黒に塗り潰すと、消しゴムの濃淡だけで絵を仕上げると言う間抜けなことをやっていた。     
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