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長い受験戦争を生き残って、やっとたどり着いた大学という物は、とても煌びやかに見える。
一浪して念願の大学に入ったおれは、心躍るキャンパスライフが待っている、とそう確信していた。そんな感じで、おれは取りあえず、サークルに所属する事にした。大学生と言えばサークルだ。
おれが選んだのは文芸部。元々本を読むのが好きだったからだ。夏目漱石や太宰治なんかの、文豪の本をよく読んでいた。
文芸部には、まあ部長や副部長に同回生、先輩なども居た訳だが、彼らは余りおれの話に関係はない。おれのトラウマと言うのはただ一人、赤坂京子と言う女性だ。
地味な感じの女子大生で、不思議と間延びした喋り方をするのが特徴だった。
彼女とおれが、サークル内の赤の他人から、それ以上の関係になったのは、新歓コンパの時だった。サークルに入る新入生を捕まえる為に、あの手この手で引っ張ろうとする行事の一つだ。
居酒屋で新入生が自己紹介するのが決まりだが、おれと赤坂の自己紹介だけを取り出してみる。
まずは赤坂の自己紹介。
赤坂は新歓コンパも目立たない地味目な服だった。
「赤坂……赤坂京子です。よろしくお願いしますぅ」
そして間延びした、のんびりとした性格である事をうかがわせる話し方だった。
しかし後述するように、彼女は別にのんびりとした性格でもなんでもない。これは彼女の二面性……と言うよりは、一つの特徴が、そう思わせるような物だっただけだ。
そしておれの自己紹介。
「松田圭太です。昔の本ばかり読んでいます、よろしくお願いします」
杓子定規な自己紹介で、特に言うべきことも無い。
それから先輩方や新入生同士で歓談をしつつ飲み食いをするが、ここは割愛する。
やがて新歓コンパは終わり、皆が解散する。その時、赤坂はかなりふらついていた。他に手を貸す人が居なさそうで、おれは赤坂に駆け寄った。
「赤坂さん、大丈夫?」
「大丈夫……ですぅ……っと、少し……離れて」
赤坂はそう言うと、道の端へ屈んで嘔吐した。飲み過ぎだった。
「大丈夫じゃなさそうだけど」
おれは背中をさすりながら、赤坂を抱えた。嘔吐するほど酔った人間を一人で置いておくわけにはいかない。
「あ……ありがとう、えっとぉ……ま、ま」
「松田」
「ありがとう……松田くん」
赤坂は辛そうながらも微笑んで、おれを見た。
おれは彼女を介抱して、タクシーを呼び、家まで送って貰った。
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