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ISOUROU
ある日、勤めていた雑貨屋をクビになった。
その店は60代の夫婦が営み、大学に入った頃からかれこれ五年ほど世話になっていた。
奥さんが世界中から買い付けた食器やアンティークの小物、ガラスで出来た置物がショーケースや壁に飾られ、女性に人気のある店だった。
俺以外にもう一人、二つ年下の綾香という女の子も働いていた。
小さな店だったが、夫婦はとてもいい人で居心地がよかった。
大学を途中で辞めても、俺はそのまま雑貨屋で働き続けた。
だが世の中が少しずつ不況になり、物が売れなくなっていった。
俺の働く店の通りには、他にも洋服屋、総菜屋、八百屋、床屋、和菓子屋、文房具屋等の店が建ち並んでいたが、そのほとんどが閉店してしまった。
俺のいた店も客が減り続け、従業員を一人削らざるおえなくなった。
それでも、夫婦は最後まで踏ん張ってくれていた。
ある日、俺と綾香は別々に夫婦に呼び出された。
事情を聞かされた綾香は、控室からうなだれるように出てきた。
綾香にとっても居心地がいい店だという事は知っていたし、将来の夢が自分の店を開く事だという事も聞いていた。
だから、俺をクビにして欲しいと言った。
夫婦は何度も何度も謝ってくれた。
その月のお給料は少しばかり多かった。
それが一ヵ月ほど前の出来事だ。
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