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別段、子供から貰う物に期待していたわけではないが、少し落胆してしまう。
「ごめんね、僕あんまり飴はすきじゃないんだ」
「なんで?」
少女は不思議そうな顔で問いかける。人間誰しも飴玉を好きなものだと認識しているのだろうか。
「特に理由はないのだけど、強いて言うなら、飴って舐めた後、喉が渇くでしょ?」
「イガイガ?」
「そう。イガイガ」
少女は手で怪物を表現するかのように、指先を折り曲げるとイガイガ―と叫び始めた。
「何それ?」
「飴玉星のイガイ―ガ」
イガイガと吠え続けるイガイ―ガに僕は頭を抱えた。久しぶりに言語が通じない生物に出会った瞬間だった。
数分すると、落ち着いたのか、少女は人間に戻り、半ば無理矢理僕に飴玉を押し付けた。
「ちょっと、いらないって!」
「strawberry」
「は?」
少女らしくない流暢な英語に少し驚く。
「私のお気に入りなの、美味しいから」
建物内へと駆けて行く。最後に「イガイガは倒したから!」と言い残し、消えてしまった。
「何、あの子」
理解不能な出来事の連続で僕の頭は容量を超え、破裂してしまいそうだ。
僕は嘆息すると、手元に残された可愛らしい飴玉へと目を向ける。
「仕方ない」
放置して、無駄にしても勿体ないし、少女は好意で渡してくれたのだから、食べた方がいいだろう。
左右の髭を引っ張り、包装の結びを解くと、着色料が施されているだろう深紅な飴玉が姿を現した。口に含むと、人工的な砂糖の甘さが味覚を刺激する。
「やっぱり、好きにはなれないな」
吐き出すのも悪いので、バリボリと噛み砕く。千々に砕けたところで、一息に飲み下した。
「……イガイガするし」
後日、少女に出会う機会があれば、一つ文句を言ってやろうと心に決める僕であった。
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