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「今日もか」
僕は読んでいた本を閉じ、大きく伸びをした。肩がバキボキと鈍い音を鳴らす。
少女が来なくなってから、二週間は経っただろうか。いつの間にか、少女と過ごす日々を普段通りの日常だと認識している自分がいた。
視線を上げると、空は僕の気持ちを嘲笑ってか、青く澄んでいる。綿菓子のような雲が大海原を気持ち良さそうに泳いでいた。
僕は嘆息すると、自分の部屋に戻ろうかと、足を一歩踏み出した。
――刹那。
「ねえ、何しているの?」
幼く、しっかりとした声音が辺りに響いた。声が聞こえた方へと目を向けると、時間の経過を感じさせない、いつも通りの少女が立っている。
「お、まえ」
「久しぶり」
少女は瞳の上に右手を添え、警官のようなポーズをとると、苦く笑った。
「いやあ、最近色々と忙しくて。なかなか遊びに来れなくて」
少女の頬を滴が伝う。
「ごめんね、寂しかったでしょ?」
「――なわけないだろ。せいせいしたよ」
「えー、嘘つくなってー」
少女は僕の頭を撫でようとしたのか、つま先立ちをし、背を伸ばしたが届かず、反対に僕が少女の頭を鷲掴みにし、ぐしゃぐしゃにかき混ぜる結果となった。頬を弛緩させる少女にいつしか僕の唇も笑みを刻んでいる。
「でもね、私」
「わかってる、僕も」
「そっか。じゃあ、当分お別れだね」
不意に、強い風が吹いた。木々が靡き、少女の髪が流される。僕の頬に水滴が付着し、溶けていった。
「すぐ、会えるよ」
僕の言葉に、少女は笑みを浮かべる。
その日が少女に会った最後の日だった。
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