strawberry

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 あの日から数日が過ぎ、僕の待ち望んだ平凡な日常が到来した。僕は今も中庭のベンチに座り、読書に耽っている。 「今日は外れ」  読み終えた本を閉じると、欠伸が漏れた。目尻に浮かぶ涙を拭い、背凭れに背を預ける。  あの日以降、少女に会うことはなかった。きっと、遠い場所に行ってしまったのだろう。けれど、悲観することはない。なぜなら、僕も近々そこへと赴くのだから。  僕は懐へと手を差し入れる。指先に触れたのは、最後の日に貰った小さな飴玉。  最近気付いたことだが、この建物に併設されているコンビニにこれと全く同じ種類の飴玉が存在していた。少女が食べてと念押しするものだから、普通の物よりも貴重な美味しい飴なのかと勘違いしていたのだが、特になんてことはない安い飴だったわけだ。手に取り、思案したが、買うまではいかなかった。僕は少女から貰う飴玉に意味を見出していたようであり、自分で買ったものに意味などはないと気付いたからだ。そうなると、この飴を食べるのはこれで最後ということになる。意識すると、手が伸びず、この数日は桃色を眺める毎日だ。 「仕方ない」  このまま握りしめていても、暑さに溶けてしまうだけだろう。それなら、食べた方が良いに決まっている。そんな言い訳を胸中で並べる。  桃色の包装を剥がし、口内に含む。舌先で転がすと、病的な甘さが際立つ。甘い。  ――甘くて、苦い。そして、痛い。  カランコロンと左右に転がる飴玉を深く、深く味わう。  胸が痛くて、仕方がなかった。痛みの意味が僕には分からなかった。僕は一体、少女に何を感じていたのだろうか。友情?同情?――愛情?  電流が身体を駆け巡り、僕は座っていられず蹲る。視界の端に、こちらに駆け寄ってくる人影が視認できた。 「大丈夫ですか!?今すぐ病室に」  女性に抱えられ、僕は自分の部屋へと足を向ける。動悸は収まらない。胸の痛みは消えない。全てを忘れたくとも、忘れることが出来ない。飴玉はまだ僕の中に存在する。 「大丈夫。すぐ、会えるさ」 カランコロン。舌の上を転がる甘味が喉の渇きを訴える。  甘く、苦い。そして、痛い。  ――僕の嫌いだった味。Strawberry。
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