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ある街に立派な庭な持っている老人がいた。 庭はきちんと手入れされており、たくさんの植物が植えられていた。 老人は庭は一般開放しており、街の人や観光客は四季折々の花を楽しんだ。 老人の庭は街の大切な観光資源だった。 ある日、役所の地域担当の青年が老人を訪ねた。 「なぜこんな立派な庭を造ったのですか?」 青年は聞いた。 「お恥ずかしい話ですがね、子どもの頃に大好きだった小説がありましてな、そこに美しい女神様が住む美しい庭が出てくるのです。私はその女神様が大好きでした。子どもだったせいもありますが、まさに初恋ですよ。私はその庭を大人になっても忘れられなくて、自分の手で再現したいと思いました。それで、自宅の庭を少しずつ手入れしていったのです。今じゃすっかり庭いじりが趣味ですよ」 老人は笑った。 「今も女神様に会いたいと思いますか?」 青年は聞いた。 「今は…そうは思わないですね」 「あなた、お茶が入りましたよ」 声がした方を振り返ると、優しげな老女がティーカップを乗せたトレイを運んできた。 「ありがとう」 嬉しそうに微笑む老人を見て、青年は思った。 老人はすでに自分だけの女神を見つけていたのだと。
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