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「お父さん。お母さん。……これって、目が見えなくなったんじゃないの?」  慎治の声で父と母が凍りつき、震えているのが見えなくても分かった。 「……そ、そんなばかな」 「あ、あなた……ど、どういうこと?」  家族三人が同時に目が見えなくなるなんて、にわかには信じられなかった。いったいなぜ? 自分たちの身に何が起きているのだろうか。 「い、一時的なものかも知れない」  善之が言った。 「とにかく、病院に行こう。医者に診てもらうしかない」 「……そ、そうね。病院に行きましょう。何か原因があるのよ。一時的なものなら、きっと回復するわ」  善之の『一時的』という言葉に、朋子も少し落ち着いたようだ。慎治も『一時的』といういちるの望みを抱くことで、気持ちにわずかな余裕ができたが、大事なことに気づいてしまった。 「……でも、どうやって病院に行くの? 目が見えないのに……」  家の中を歩くだけでもよちよち歩きだ。これではとても病院にはたどり着けそうにない。 「救急車を呼ぼう。それしかないだろう」  善之が手探りでスマホを見つけ、119番にダイヤルしようとするが、 「……だめだ。スマホはだめだ。使えない。見えないとダイヤルできない」  何も見えない状態で画面をタップしても、何がどうなっているのかさっぱり分からないのだ。当たり前のように使っているスマホは目が見えないとまったく役に立たない。そんなこと考えたこともなかった。
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