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「……そうだ。固定電話ならプッシュホンだ。あれならなんとかなるかもしれない」  しかし、善之が部屋の中を這うようにして探っているが、なかなか見つからない。そう言えば、固定電話など長いこと使っていなかった。解約してもいっこうに構わないのだが、何となくそのままにしていたのだ。 「あ、あなた、ここよ。ここ!」 「ああ、どっちだ?」  ようやく善之が固定電話にたどり着き、震える手で番号ボタンを押してみる。単純な119番とは言え、目が見えないとなかなか正確に押すことができない。呼び出し音が鳴り、ようやく電話が繋がった。しかし、誰も出ない。無言だった。 「……おかしいな。どういうことだ」  善之は何度か電話を切ってみては、もう一度119番をプッシュしてみた。 「あなた、どうしたの?」 「……分からん。電話は繋がっているようだが、誰も出ないんだ」 「番号が間違っているんじゃないの?」  そう言って今度は朋子が119番をかけてみる。番号のボタンは上段左から一、二、三、中段左から四、五、六、下段左から七、八、九のはずだ。119なら何度かやれば見えなくてもプッシュすることは可能だ。 「……だめね。何度やっても誰も出ないわ」 「お母さん。今度は110番にかけてみてよ。緊急事態なんだから、説明すれば救急車を呼んでくれるよ!」  慎治の提案はもっともだ。なりふり構っている状況ではないのだ。わらにもすがる気持ちで朋子が110番をかけてみた。 「……」  朋子が黙っていると、 「おい! どうした? 繋がらないのか?」
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