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 善之が代わって110番をプッシュしてみるが、救急車と同じ反応だった。電話は繋がっているようだが誰も出ない。 「お、お父さん? 出ないの? 110番に誰も出ないなんて……おかしくない?」  慎治は泣きそうな声になっていた。 「……分からん」  善之はそう言うと、そのままソファに座り込んだ。ソファのきしむ音が止むと、辺りは静まりかえり、ここがどこなのか分からなくなるような感覚に包まれた。やがて平衡感覚も狂いだし、立っているのも難しくなった。慎治は四つん這いになって、自分の居場所を確認するように這いずり回った。暗闇と静寂がこんなにも恐ろしいとは……。耐えきれなくなった慎治は、 「そうだ。テレビだ! お母さん、テレビつけてよ!」  と言って、自分もリモコンを探しはじめた。善之と朋子も探しているが、なかなか見つからない。ほんの少し動いただけで自分がどっちの方向を向いているのか分からなくなる。大した広さもないはずのリビングが広大に思えた。四つん這いになって手探りで進むのが一番効率が良かった。 「あった! これだ!」  慎治がようやく見つけ出し、テレビのスイッチを入れた。しかし、ザーっと音がするだけで番組の音声は流れてこない。チャンネルを変えても同じだ。  すべてのチャンネルが『砂嵐』だった。善之がオーディオのラジオのスイッチを入れてみると、これも同じだ。いくらチューニングダイヤルを回してみても、やはり、ザーっと音がするだけだ。  慎治たち三人は疲れはてて動かなくなった。まったく目が見えない異常事態の中、電話もテレビもラジオも使えない。今が何時なのかも分からない。朝なのか? 光の一切入らない牢獄に閉じこめられたように、ゆっくりと神経がすり減っていくのが分かる。いつの間にか三人はソファに身を寄せ合うようにして座っていた。慎治は恐怖で震えが止まらなかった。父と母も震えている。高校に入ってからは父と母を避けるようにして暮らしていたのに、今はその温もりだけが慎治の正気をかろうじてつなぎ止めていた。
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