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 中央コントロールルームは、大小のモニターがずらりと並び、さながらロケットの発射を指揮する管制室のような雰囲気だ。そこに大勢の研究者や技術者が入りきれないほど集まり、全員が固唾をのんで、その時を待っていた。正面の大型モニターには目まぐるしく変化する数字やグラフが映し出され、パソコンを操作するオペレーター達の動きも激しくなっていた。緊張感の高まりを察知した報道番組のテレビクルーもあわただしく動き始めた。 「エネルギーレベルが限界値に到達しました!」  誰かが叫ぶと、どよめきは止み、その場の空気にさらなる緊張感が充満する。声を出す者は一人もいない。しんと静まりかえっていた。ある者は祈り、ある者は胸の前で十字を切っている。日本人だけではない。白人も黒人もいる。性別も、年齢も、国籍もバラバラにもかかわらず、奇跡の顕現(けんげん)を待つ殉教者のように、全員がその瞬間を待っていた。 「最高速度を達成! 最初の測定値出ます!」  呼吸が止まり、物音一つ聞こえない。まるで時間が止まったのかと思うほどの長い瞬間だった。 「Z粒子の検出を確認! 成功です!」  絶叫のようなアナウンスを聞くと、その場にいた全員が歓声をあげた。そこかしこで抱き合い、握手をする。あちこちでクラッカーが鳴り響き、一気にお祭り騒ぎとなった。 「手塚(てづか)博士! おめでとうございます!」  歓喜の中心で、ひときわ顔をほころばせ、涙ぐんでいる男がいた。実験グループの主席研究員・手塚省吾(てづかしょうご)は、他の研究員から次々とハグを求められ、もみくちゃにされていた。 「ついにやりましたね! これで日本の素粒子研究は飛躍的に進みますよ!」  一人の研究者がそう言って、手塚と握手を交わした。その若い研究者は、明るい未来を信じて疑わない、そんな希望に満ちた表情だった。手塚は圧倒され、うなづくのがやっとだ。 (……これは始まりに過ぎない。ようやくあの方の教義が実現する。その時が来たのだ……)
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