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 やっとこの時が来たのだ。歓喜の中心で手塚は思いをはせていた。中空に視線をさまよわせ、ここではないどこかを見つめていた。  テレビカメラが近づき、レポーターの女性が手塚にコメントを求めた。 「手塚博士! 今のお気持ちを!」 「ほっとしています。ですが、これは始まりに過ぎません。この施設でヒッグス粒子の確実な発見に繋げたいです」  手塚は周りが騒ぐほど、どんどん冷静になっていく自分を感じていた。それはやがて罪悪感となって、手塚の心を揺さぶった。 「先生! おめでとうございます!」  また一人、別の若い研究者が手塚に握手を求めた。手塚は笑顔で応える。 「……ああ、ありがとう」 「実験グループに参加できて光栄です。この加速器を使えば必ずヒッグス粒子は発見できますよ。いよいよ『神の領域』にたどり着けますね」  ――神の領域。若い研究者は興奮気味にそう言った。そうだ、宇宙の真理を探求するための装置がこの加速器なのだ。確かにそれは『神の領域』に触れることにほかならない。そして、さらなる『上位の存在』にアクセスが可能となるのだ。 「だが……この加速器は触媒にすぎないのだよ。我々は神託を待っているのだ。光の啓示はまもなく我々に下される。光の巫女よ! どうかお導き下さい。すべては『お光様(ひかりさま)』の御心のままに……」  周りの喧噪にかき消され、手塚の言葉はその若い研究者には届かなかった。
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