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「行ってきます」  慎治は朝食もそこそこにあわてて家を出た。父と一緒に家を出るのは御免だからだ。  県立深江東高校二年二組。  自宅から電車で二駅のその高校は、県内ではそこそこの進学校だ。苦労して入学したのは良いが、入ってからが地獄だった。授業についていくだけでも大変で、中学では秀才で通していた慎治もここでは並以下だった。親しくしている奴はいるが、本当の友達は一人もいない。悶々(もんもん)とした青春も、目をつぶっていればそのうち通り過ぎるはずだ。そんな風に考えるようになって、すでに慎治の高校生活も折り返し地点を過ぎていた。  物理の尾野(おの)先生が今日稼働する大型ハドロン衝突型加速器について熱っぽく語り出すと、あからさまにあくびをする奴があらわれた。テストに関係のない話は基本的に興味を示さないのだ。 「先生。結局、加速器って何の役に立つんですか?」  一番前に座っている奴が聞いた。大して興味もないくせに。 「そうだな。まぁ、我々の生活には直接関係ないかも知れないなぁ。それでも宇宙の真理を探求することは意味のあることだぞ」  尾野先生の話も結局はテレビのコメンテーターと同じだ。慎治はそう思ったが、 「もしかしたら……我々がどこから来て、どこへ行くのか、その答えにたどり着けるのかも知れないな」  その言葉は妙に頭に残った。
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