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彼は、優しく私の手を握り、「大丈夫、大丈夫」と少し低めの落ち着いた声で繰り返す。
薄く窓を開け、暖かな春の風を感じながら、「桜が満開だよ」と教えてくれる。
私にはもう起き上がる力がなく、ただベッドに横たわることしかできない。
光も失ってしまったので、彼が笑っているのか泣いているのかも分からない。
それでも彼は、いつも優しく私の手を握り、「大丈夫、大丈夫」と少し低めの落ち着いた声で繰り返す。
私に言い聞かせているのか、それとも自分自身に言い聞かせているのか、そんなことはもうどうでもいい。
分かりきったことは言葉にしない、暗黙の了解みたいなものだ。
私は精いっぱいの力を振り絞って「ありがとう」と微笑んだ。
そして緩やかに体を支配しようとする睡魔に身を委ねることにした。
もう、二度と目覚めなくてもいいくらい、私は幸せだから。
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