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三章
「……すべての命に感謝を」
二日目の移動を終え、樹木の生い茂る手頃な場所で夜を迎えたノートとクリスは、晩飯をとっていた。
「どうしたんだ、クリス。急に俺の真似なんかして」
「あのね、昨日の夜、思ったんだ。私、感謝の気持ちを忘れてたなって。だから、今日からは、ノートの真似だけどちゃんと口にしよう、かなっ……て……」
始めはしっかりと言葉を口にしていたクリスだったが、次第に顔が赤くなり、最後には草の音で消え入りそうなくらい小さな声で呟いた。
「昼飯の時にごにょごにょ言っていたのはそれだったのか」
「……だって、いざ口にしようと思ったら、結構恥ずかしかったのよ」
「そうか。だが、いい心掛けだと思うぞ。最近では内地の奴らも感謝の言葉を忘れがちだしな。ちなみに、この言葉は俺の村で使われていた言葉でな、場所によって結構違ったりするんだよ」
「文化もいろいろあるってことね」
ノートもクリスと同じようにいつもの言葉を告げ、木の実を口にした。
カリカリとした木の実独特の食感が、口内に広がる。
「ねえ、ノート。星の穴ってあとどれくらいで到着するの? まだまだ先?」
クリスの質問に、ノートがあまり当てにはならない地名が描かれただけの周辺地図を取り出し、眺めながら答える。
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