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プロローグ
しなやかに波打つ煌びやかな金髪、果てを見渡す深い金色の眼。
宙に映る星々の瞬きにも劣らないと謳われる彼女は、草木の生い茂る庭でむすっとひとり呟いた。
「つまらない」
子供のように庭園の池に足を浸け、バシャバシャと水を打ち鳴らす。
こんなところを誰かに見られては、また長ったらしいお説教が始まるだろう。
貴方様は一族の顔となるのですからいい加減お淑やかに、という小言から始まり、一流には必須とされる礼儀作法、踊りの練習、望まない勉強。消費されていく人生。
私の意思なんて要らない、決められた道を歩くだけ。そんなものは、人形が手足を動かしているのとなんら変わりがない。こんな生活はもうウンザリ。私は、私の意志で道を歩きたい。
「……よし、決めた。旅に出よう」
彼女は地面に散らばった髪を持ち上げるように、勢い良く立ち上がった。
しかし、旅に出るとは言ったもの、どこに行くのがいいのだろうか。生半可なところに旅に出るのでは、すぐに見つかってしまう。連れ戻されてしまっては最後、二度と旅に出ることは出来ないだろう。
「……うーん。でも、どこに行ったら……」
唇に手を添わせながら、星を見上げる。広大な宙に大きな星が一つ、唸る彼女の瞳に映しだされた。
あの星は、自室に並べられた本にもよく登場する星だ。現在でも天体観測が続けられており、噂では稀に降り立っていることもあるという。
……あぁ、旅立ってみたい世界があったではないか。
遠い昔、小さな頃の願いだった。お伽話を何度も読み返し、同い年の友達を作りたくて言いつけを破り自室を出た。しかし、友達を見つけることはできず、連れ戻されて叱られた。私の手の届く範囲に、同い年の人間など存在しなかったのだ。
今となっては社交活動もあるため多くの知り合いがいるが、友達と呼べるほど親しい者は、未だに誰もいない。
あの星であれば、私が求める人物はいるのだろうか?
これから私が向かう先は、宙に浮かぶひときわ大きな青い星。まずは計画を練り、墜ちる準備をしなくては。
早速行動に移すべく、彼女はいたずら笑顔で屋敷へともどっていった。
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