幕間 『少女の旅路』

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幕間 『少女の旅路』

 雲一つない星瞬く夜空に、大きなお月様が浮かんでいる。  月明りは、私が考えているよりも明るく、夜空の下で本が読めるほどに大地を照らしていた。風も穏やかで、雨に降られる心配もない。  体は一日の歩き疲れと緊張によって、心身ともに休息を欲しがっている。初めて野宿を行う私にとっては、絶好の環境と機会。  でも、なぜだか眠れなかった。どうしてなのかは分からないが、心が落ち着かない。先ほどの演奏で、リラックスはできていたはずなのに。……眠れない。  隣にいるノートを見てみると、彼はすでに帽子を脱ぎフードを枕代わりにして、岩に背を預け眠っていた。スースーと疲れを癒すように、自然と一体になったが如く、眠っていた。  私も彼に倣い、フードを枕代わりにして、岩に背を預け、目を瞑る。  すると、普段は聞くことのない、奇妙なざわめきが耳へと届いてくる。真っ暗な闇の中で聞こえるのは、自然の音、ではない。ノートの呼吸音でもない。私が認識していなかった、生命達の息使いだ。  土の中でひっそりと生きる生物。木にしがみつき休息をとる昆虫。私が背もたれにしている、大きくせりあがった岩。周りに生えている樹木や草。果ては、私が座っている広大な大地のまでも。  すべてがこの時間この世界に生命として存在し、呼吸をしている。  私は今まで、誰かの保護下で生きてきた。立派な家。丈夫な壁。ふかふかの布団に警護の人間。安全で危険のない、人間達が作り上げた楽園の中心。  でも、今は違う。  私の知らない生命が存在し、認識していなかった物質までもが生きているのだと知った。  私が眠りに就くことが出来ない理由は、ここにあった。  自分を守ってくれる楽園が無いため、緊張を解くことが出来ていないのだ。
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