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人間はこれまでに、様々な技術を生み出してきた。建物を造る技術。空を飛ぶための技術。食物を生み出す技術。病気を治すための技術。形は違えども、共通する点はみな同じ。自分達の生活を、より良いモノにするために作られたということだ。
しかし、技術を生み出せば生み出すほど、進化の過程でいつの日か人間は忘れてしまった。
自分達は人間以外の生物、環境、自然と共に、生きているということを。ただ一方的に、利用しているだけではないことを。そして、彼らに対する感謝の気持ちを。
私は、彼らと共に眠りに就こうとしている。明確な感謝の気持ちを持たず、共生を理解していないにもかかわらずだ。
……眠れるはずがなかった。
いつも、ノートが食事をするときに、必ず発言している言葉がある。
――すべての命に感謝を――
この言葉は食材に対して告げているのではなく、世界に向けて告げているのだと、ようやく私は理解した。
自分達は自分達だけで生きているのではなく、彼らに助けられて生きている。
今はまだ、彼らに対する感謝を明確にすることはできないけど、共生を心から受け入れることはできないけど、それでも少しずつ気持ちに出来るようにと、私は口にした。
「……ありがとう。……おやすみなさい」
緊張は未だ完全には解けず、心は固い。隣にいるノートの手をそっと握り、目を瞑った。
…………。
「……ン……うん? ……眩しい……」
暖かな光を感じて瞼を開くと、目の前には、朧に揺らめく大きな太陽が夜と朝の境界に浮かんでいた。
上手く回ってくれない、虚ろな頭で考える。
……私はどうやら、眠りに就いていたらしい。
「……おはよう、クリス」
声を掛けられ、寝ぼけ眼で隣を見ると、ノートがこちらを見つめながら優しげな顔で微笑んでいた。ノートの絹のようなさらりとした白銀の髪が、朝の陽光によって橙色に染まっている。
私も同じように笑って、「おはよう」と言葉を返した。
私はきっと、締まりのないふにゃふにゃな顔で笑っていたに違いない。
彼は、よく眠れたか、だとか、疲れは取れたか、などとは言わず、ただ一言。
「今日の朝日は、格別に綺麗だな」
真っ直ぐに顔を向け、朧な姿を眺めていた。
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