三章

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 ノートの言葉にクリスは頷き、ガラスの欠片を手放して共に歩き始めた。  点々と地に伏す岩の遺産は数多く、どれも巨大だ。星の穴へと向かう入り口に差し掛かっただけだというのに、辺りの異質さに圧倒される。どれほどの歳月を遺産は重ねてきたのか。用途は何なのか。古代人は何故滅びてしまったのか。現代に生きる人々に理解できることはとても少なかったが、ただ一つ。どのような人間でも理解できることもあった。  古代人の技術は、我々の想像をはるかに超えた、神にも等しい。否、神であったのだろう。  しばらく遺産を追っていると、風化した岩だけが転がっていた灰色の大地は、徐々にその色を取り戻し始めた。  目的地に近づくにつれ感じるのは、()えた鉄の臭いと、草の香り。辺りには崩壊した岩だけではなく、凸凹(でこぼこ)の錆びた鉄の塊や、岩に穴を空け侵食するように突き出す樹木、遺産に巻きつく緑の蔦が多くみられる。足元には野草が多く生息しており、うっかりしていると足を取られてしまうほど無造作に生えている。建物らしき赤い屋根のある小さな家は半分以上の形を失っており、今にも崩れ落ちそうだ。どの遺産も形をなしているものなどなく、折れた鉄柱や採掘跡、人が持つことのできない巨大なハンマーで真横から殴られたかの如く崩壊した灰色の岩に、風化を重ね砂となった物体。広大な大地に描かれる遺産で彩られた絵画には、古代人の生きた証が記されていた。  そして、古代の遺産が散らばる中心地。巨大な穴を以って光を飲み込む、目的地が存在していた。
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