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それは些細な事だった。
私、ティラミス・シュトーレンは春先のまだ少し寒さの残るこの日、五歳の誕生日をむかえた。
シュトーレン公爵家当主である父と娘の私から見ても可憐な少女にしか見えない母、三つ年上の姉と一つ年上の兄に誕生日を祝われプレゼントを貰い、私はいつになくご機嫌だった。
美味しいご馳走に姉のミルフィーユが作ってくれた大好物のベリータルトを食べ最高に浮かれていた。
浮かれ過ぎた私は兄のラスクが注意する声も聞かずタルトを口いっぱいに詰め込み案の定、喉に詰まらせた。
…やばい、このままでは飲み込めずに息が出来なくなる。私の様子がおかしいことに気付いた兄が慌てながらも「だから言ったのに」と言わんばかりの表情で近くあった飲み物を渡してくれる。何故か父が驚いた顔をしていたけど、今はそれどころではない。
早く飲み込まなければ死んでしまう。
私は兄から受け取った飲み物を口に流し込み無理矢理タルトを飲み込んだ。…なんだろう?やけに喉が熱い…まあいい、助かった。
と思ったのもつかの間で顔に熱が集まり身体が熱くなる感じがすると思えば私はそのままぶっ倒れた。
身体が熱を増すのと同時に頭の中に知らない記憶が流れ込んでくる。まるで濁流のような記憶の波にのみ込まれ現実の意識が遠退いて行く。
薄れる意識の中で兄の 「間違えて父様のワインを渡しちゃった」「どうしよう!」「ティラミス?!死なないで!」と言う泣き声と父や母、姉の焦った声が聞こえた。
あぁ、そういえば兄はうっかりした人だったなぁ。
そう思いながら私は意識を手放した。
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