ライナスの左手

1/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

ライナスの左手

処暑を過ぎて間もない夜風はまだ湿った呼吸を繰り返している。乾いた砂粒を足元にこぼすように、留まりどころを溶かしてしまった季節のすり抜けていく気配をなにも持てずただ感じていた。 無防備に投げている裸足の隙間をくすぐっていく風。濁ったままにしている虹彩になまぬるい夜がおざなりに絡まって、それからやっと思い出した素振りでまぶたをおろした。 落ちるのは簡単そうに見えて、いざやってみるとそういうわけにもいかない。けれど、それを愚かだと責めてしまうことが出来るのは自分でしかないのだ。そこに気がつけなかったのは全て後付けでどうにでも出来てしまう。 例えば浅さだとか、青さだとか、あるいは。 自業自得といつかわらったふるえる音が鼓膜の狭い隙間でじりじりと滲む。 気の抜けてしまったソーダ水みたいな憂鬱と安心。 季節がどうであれ、諦念は夏の終わりに似た影を落としている、いつだって。 ほしいものなんて、なにもない。 今日も地獄は仄明かく、そして自業自得に似ていた。 安心しようとすると、とたんに駄目になってしまうのはもう治らないのだろう。     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!