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擦りきれたボトムの裾から出ている裸足の、定規でひいたみたいな形をした爪先が毛布を引っ張る。穴だらけのそれに指を引っ掛けて遊ぶのがこいつは好きだ。そういう、ろくでもないことが。
「な、中島みゆき、はい、き、からはじまるやつ」
「気晴らし、しりとりですか?」
「シュプレヒコールの波」
俺も彼女も、嘘が絶望的にへたくそだった。
だから、もう嘘について考えるのはやめようという事で合意した。
そんなふうにやわらかくした共犯ごっこも、その毒の重さも、しばらくすれば慣れてしまえる、そんなものだった。
「それ、歌ですよね」
一旦呼吸を継いでゆっくりと吐き出しながら言葉を急かし、生きることを急かす。
毛布の焦げ跡をかるく引っ掻けば爪の先に黒くそれは溜まり少しの間を挟んでから乾いた香りが一瞬持ち上がったけれど、それはすぐしけった空気に混ざり消えてしまった。
こいつは寝相が悪い。
手だけ伸ばして指先に触れた感触を引き寄せる。
「はい、好きなんです。あんたの運の悪さも、面白いからなんか好きですよ」
だるそうに息だけで笑う声に聞こえないふりをしながら、くしゃくしゃのソフトから取り出したそれに火を点けて、思い出というにはうそさむすぎるものをまぶたの裏でなぞった。
そうして、紙一重の、うすっぺらなあきらめを舌に乗せてふっと自嘲する。
息をするように。息をゆるすように。
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