ライナスの左手

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歯の跡どころか、赤くもならない、そんななまやさしいだけの痛みは膿んでしまうよりも質が悪いということを彼女は知らないし、これからもきっと同じなんだろう。 がらがらとしている、声量のない乾いた声はぬるく発音されてどこか軽薄で投げやりに聞こえる。それが昔から気になっていたけれど、注意する言葉はまだ足りない。 どう聞こうとしても、変わらず素っ気ない声音で適当に投げられた声に、耳の奥が破れて不愉快にこすれたような気がした。 なあ、誰が謝れなんか言ったよ。今更、全部嘘以外のもんに出来るわけねえだろ。 「しりとり、やらないんですか」 「まだそんな気分じゃないんで」 もたついている声はいつもより聞き取りづらく、眠気を引き寄せてくる。 毛布の端さえも寄越してくれる気はないらしいので、ずれ落ちかけたパーカーをもう一度首元まで掛けた。 薄膜にくるまれるみたいな、浅い眠りをずっと流れていくみたいな、粗悪な、毛羽立ったおだやかな安心。焦げ跡だらけの洗うほどボロ雑巾になっていく毛布。 こぼした吐息はあくびになって、肺にたまった水分がまぶたの底からうっすらと浮かんだ。 痩せほそった痛みが神経のあちこちに絡みついていて、もう耐えきれない、と幾度となく思ったことを性懲りもなくまだ繰り返している理由を、惰性だよ、と二人で割りきった。     
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