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誰にも見せてはいけない、伝えてはいけないと抑え込んでいたものが、決壊してしまったもの。
ぼくとおじさんは、おなじものを抱えていたのか。
「ああ――」
伝えたいのに、言葉の枠におさまりきらないものが漏れた。おじさんが顔を上げる。
互いの顔をじっと見て、ぼくはまた、おじさんの頬に手を添えて唇を重ねた。
ハラハラとこぼれるおじさんの涙が、ぼくの指を濡らす。
「おじさん」
呼びながら唇をついばんで、この呼び方は違うなと言い直した。
「卓弘」
うっ、と苦悶に顔をゆがめたおじさんが、ガクリと膝をついて僕の腰にすがった。ボロボロと涙を流しながら、すまないと繰り返す。
謝罪なんてしてほしくない。だって、ぼくとおじさんは両想いなんだから。
そう言いたいのに、感情が大きすぎて言葉にできなかった。だからぼくは、ありったけの想いを込めて、おじさんを呼ぶ。
「卓弘」
ぼくよりもたくましくて、ほんのちょっぴり背の高い、ぼくよりずっと年上の、とうさんの弟であり、誰よりも好きでたまらない人の頭を抱きしめる。
「卓弘」
ぐうっと嗚咽をもらしたおじさんとぼくは、長年の思いの丈や、歓喜と困惑と、これからのふたりを思ってすすり泣いた。
この両想いは、かなえてもいいものだろうか――と。
END
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