ぼくのおじさん

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 クセのある髪の毛は寝起きのままって感じだし、服だってシワそのままのヨレヨレだ。貧乏くさいと言えばいいのかもしれないけれど、清潔感だけはちゃんとある。無精ひげを生やしているのはファッションだとか言っていたけど、ぼくはただの無精だと思っている。  とうさんがよく「卓弘は極度のめんどうくさがりだからな」と言っていたから、それがぼくの意識にこびりついていて、おじさんの印象を決定づけているのかもしれない。  おじさんは食器棚からカップを取り出し、牛乳を注いでグビグビ飲んだ。ぷはぁと吐いた息はきっと、牛乳の匂いがするんだろう。  それに触れたいと思った自分に、胸がギュッとした。 「圭太もいるか?」 「ぼくはコーヒーを淹れるから」 「おっ。そんなら、俺もたのめばよかったかなぁ」  ヘラリと相好を崩したおじさんは、人なつこい大型犬みたいだ。ドキリと心臓が跳ねて、落ち着けと言い聞かせるのに鼓動はどんどん激しくなる。  耳鳴りのように響く心臓の音が、おじさんに聞こえやしないかとヒヤヒヤしたのは中学生のころ。  高校生にもなると、さすがに心臓の音が相手に聞こえるわけはないと、理性的に自分をなだめられるようになった。  そして大学生のいまは、表面的には胸の高鳴りをなかったことにできる。  けれどそれは、あくまでも“表面的には”でしかない。 「圭太はよく気がつくなぁ」     
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