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ぼくは何度も、おじさんをオカズにひとりで快感にふけっている。休日のおじさんはとても無防備で、腰から太腿の間のほかは平気で人に見せるから。
職場の寮でも、そんなふうにしているんだろうか。
自衛隊員の生活って、どんなものなんだろう。
「おまたせ」
「ありがとな」
首の伸びたTシャツから、たくましい胸筋が見え隠れしている。それに視線を吸い込まれつつ「べつに。ついでだから」と答えて、となりのイスにこしかけた。
おじさんは休日になると、ふらっとウチに来るけれど、毎回会えるわけじゃない。大学に入ってバイトをして、友達との付き合い方や遊び方も成人してから変化したぼくは、おじさんとの遭遇率が減っていた。
これといった話題もないけれど、おじさんとなら無言も心地いい。あたりまえに傍にいて、なにをするでもなく時間を共有している。そんな空間が特別で大切で、かけがえのないものだと知ったのは、いつだったろう。
しみじみとコーヒーをすする、おじさん。
その目はどこか遠くを見ていて、口許はほんのりとゆるんでいて、とても油断をしているのだとわかる。
ぼくといるときに、おじさんもリラックスしてくれているんだと、心がふわっとふくらんだ。
なにもしていないのに、なにもしていないからこそ、いとおしいなんて。
「どうした」
「え」
「なんか、思い出し笑いか?」
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