ぼくのおじさん

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 キョトンとしてから、ぼくは笑っていたのだと気づいた。顔が熱くなって、とっさに立ち上がったぼくは、コーヒーを飲んでいたことを忘れていた。 「っ、圭太!」  鋭いおじさんの声と、力強く引かれた体。ぼくの体よりも熱い肌。それと、陶器の割れる音。  それらが同時にぼくを襲って、なにが起こったのかわからなくなって、すぐに正気を取り戻したぼくは、立ち上がったおじさんに抱きしめられていた。 「――え」 「大丈夫か? どっこも、痛くも熱くもないか」  ぼくよりも、わずかに上にあるおじさんの目が心配に揺れている。ちょっとの間を空けてから、コーヒーカップを落としてしまったのだと理解した。熱いコーヒーやカップの破片から、おじさんはとっさにぼくを守ってくれたのか。 「……どうして」 「ん?」 「どうして、こうなっちゃうんだろう」  お礼を言わなきゃいけないのに、ぼくは自分のふがいなさを吐露していた。 「どうした、圭太。なんか、あったのか?」  憂い顔のおじさんが、まっすぐにぼくを見ている。真剣な瞳に胸が詰まって、目の奥で涙が生まれた。 「圭太?」  こんなに好きなのに――。 「どうして」 「なにが」 「おじさん」 「ん?」  やわらかな声に、さらに泣きそうになった。心臓が痛いくらいに絞られて、息苦しくなる。即物的な部分が脈打って、この人が欲しいと言ってくる。 「――え?」     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加