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手を滑らせて、おじさんの首をなぞって、肩を掴んだ。そのまま手を下ろして胸乳に挑もうとしたぼくは、信じられないものを目にして硬直した。
おじさんが、泣いている。
まっすぐにぼくを見たまま、おじさんは静かに目じりから涙をこぼしていた。
目を見開いて、苦し気に眉根を寄せて、しずしずと涙をあふれさせている。
声をかけることも忘れるくらいに魅入られた。
どのくらい見つめあっていただろう。
「すまない」
ぽつりと、おじさんが声を震わせた。それは、ふだんのおじさんからは想像もできないくらい弱々しくて、たよりなくて、はかなげだった。
「ほんとうに……すまない」
おじさんがまぶたを伏せる。拒絶された気がして、僕の心がきしんだ。
「おじさん」
「圭太」
うめいたおじさんは目を開けて、まっすぐにぼくを見た。
「好きになって、すまない」
言葉の意味を理解するより先に、力強く抱きしめられた。おじさんの顔がぼくの肩に乗る。じわりじわりと湿り気を感じて、おじさんは泣き続けているのだと知った。
「ずっと、好きでいて……すまなかった」
意味を理解した瞬間、ゾクゾクと震えたぼくも涙をこぼした。そして、おじさんの涙がなんなのかを把握した。
これは、気持ちがあふれたものだ。
いとおしくて、切なくて、不安で、怖くて、あたたかくて、おそろしい感情。
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