6276人が本棚に入れています
本棚に追加
/277ページ
*
熱を出した翌日にはすっかり元気になったが、念のため休みを取った。
茉莉はというと、そしらぬ顔で朝からキッチンに立ち、
甲斐甲斐しくお粥を作ってくれた。
どうやら、キスの件は忘れてくれと言わんばかりの態度だ。
「じゃあ、私は帰るんで……」
「待て」
家事を済ませて帰る茉莉を呼び止めると、表情一つ動かさずに振り返った。
──怒っている。
全身からにじみ出ている禍々しい気配に思わず怖じ気つくも、一つ息を吐くと、
「……ありがとう。本当に、助かった」
「……いえ」
彼女は他人行儀な仕草で小さく頭を下げると、そそくさと部屋を出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!