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「いや……」
悠人は優雅にコーヒーを啜ると、柔らかく笑いながら続けた。
「二人でディナーでも行かないかと思って」
「ふふっ、珍しいじゃない。いつもは“茉莉の作ったものが食べたい”なんて言うのに」
茉莉はかりっと焼けたトーストを皿に乗せると、くんくんと香りを嗅いだ。
パンの酵母の香りがふわっと広がって、思わず笑みが溢れる。
小さな幸せを感じながら悠人の待つテーブルへ運ぶと、悠人はなぜか嬉しそうに茉莉を見つめて微笑んでいた。
──ん? 私、なにか変なことした?
どうしたのだろうと、茉莉は少し声のトーンを落とし、おずおずと訊ねる。
「なっ……、なに?」
「茉莉は美味しいものを食べるときいつも幸せそうにするから、たまにはどこか外食に連れて行くのもいいなと思っただけだ。その気の抜けた嬉しそうな顔を見たいだけだよ」
頬杖をつきながら茉莉を見つめる悠人の表情はどこか微笑ましそうで、その視線にはたっぷりの愛情を含ませていた。
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