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「聖家の最後の生贄として、職務を全うすることをあなたには課します。あなたも生贄は名誉なことだと言っていたでしょ? 大丈夫よ、祭壇に行って薬湯を飲んで眠るように逝けばいいだけ。さあ、連れて行って」
穏やかな笑顔のウノを信じられないような顔で見つめるトウノ。
「え、今……から?」
「ええ、もう随分時間が経ってしまっているから、直ぐに行くのがいいわ」
強張った表情でウノを見上げているトウノを再び兵士たちが引きずり出す。
「ちょちょちょ、待ちなさい! こんなこと、こんなことあって良いわけないじゃない!」
喚いて抵抗するトウノを六人がかりで兵士が連れていく。
そんな光景をウノは黙って見守っていた。
「ウノ、薬湯は」
それまで黙っていたエレメキの王が口にする。
ウノはええと短く返事をする。
「眠るように死ねるなんて、嘘よね。あれは猛毒だもの。あなたの国の本で学んだわ。あれは私からの贈り物よ。ぎりぎりまで苦しまずに死ねると信じて行けばいい」
私の優しい嘘よ。
あなたがかつて、私についた嘘のようにね。
ウノは心でそう呟いて、白んできた空を見上げた。
朝が来る。
そしてもうすぐ春が来る。
脳裏にポッと一輪の梅の花が浮かび、ウノは安堵したように微笑む。
終わり
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