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ウノは豪奢な絹の着物をまとったトウノがさめざめと泣くのを見守っていた。
陽射しは暖かく、山から下りてくる冷たい風が心地よい春の日。
鳥たちは歌い、それにのって楽しげに蝶が舞う。
トウノが突っ伏しているのはとても貴重な大理石のテーブルで、しかも手の込んだ彫刻が施された椅子に腰かけていた。
そこでトウノは小一時間ほど、泣いているのである。
ウノは木綿でできた着物から手を出して、近くにあった水差しから水を器に注いだ。
そして、いつまでも泣いている一つ違いのトウノにそっと差し出した。
「水なんていらないわ! だってどうせ私ももうすぐ死ぬのだから!」
ウノはそれに返事を返すことはせず、そっとトウノの厚みのある肩に手を置いた。
「喉が渇いて声が枯れているわ」
優しく声を掛けるウノにトウノはキッと睨んで「優しいふりして、私が生贄になることを望んでいるのでしょ!」と声を荒げる。
ウノは美しい顔を陰らせてそっと息を吐いた。
「トウノだって去年までは生贄になることは名誉なことだと言っていたじゃない」
「なにを偉そうに。あなたなんて単なる召使いの癖に! 私の気持ちが分かるわけないじゃない」
「そうね……、でも生贄を捧げないと山の神が……」
トウノは贅沢し放題で肥えてしまった体でウノを力いっぱい押しやった。
もちろん、他の民同様痩せた体をしているウノはそんなことをされたらよろめく。
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