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「なんなの、山の神って! そんなのそもそもいやしないのよ。それなのに、古臭い習わしに従って生贄なんて」
ウノは長いまつ毛をそっと伏せて「そうね、山の神などいないのかもしれないわね。でも古くたってなんだって、直ぐに習わしを変えるのは難しいのよ」と、トウノをなだめていく。
トウノはそんなウノをじっと見つめて、こんな風に問う。
「私のこと、可哀想だと思う?」
「ええ……そうね。思うわ」
トウノはウノの言葉にニンマリを口角をあげていく。
さっきまで、飽きもせず泣いていたのに。
「じゃあ、変わって頂戴」
「それは……」
トウノはすくっと立ち上がり、細かな刺繍が施された着物を揺らした。
「あなたのお母さんだって、私の母の為に生贄を変わったじゃない。あなたも私の為に生贄になってよ。生贄さえ捧げれば山も民も何も言わないわ」
ウノは地面を見つめたまま押し黙る。
「それに私は世継ぎを生まなきゃならないのよ。この家には今、女は私しかいないの、だから」
「お母様が生きているじゃない」
「あら、死んでることになってるからそれは無理よ」
「私が身代わりになっても、あなたは死んだことになっているから、聖家はどのみち途絶えるんじゃないかしら? それに聖家が途絶えたら、こんなバカげた慣習はなくなるかもしれないわね」
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