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「わかったわ。いいことを思いついた」
トウノが目を輝かせてウノの白い手を取った。
「数年経ったら山の神の子を身籠ったと言って、私が現れるの。そして、その子に言わすわね『生贄はもう必要ない』と。ね? いいと思わない?」
ウノは自分の手を握るふくよかな手を見つめて聞く。
「では、あなたが山へと一旦向かうの?」
トウノは目を見開いて驚き、まさかと即言って返す。
「生贄は必要だわ。すぐには変えられないと言ったのはあなたよ? だから、あなたが生贄になって頂戴。私は子作りに励むわ」
「どのみち、私には生贄になれと?」
「ええ、怖がらなくても大丈夫。薬湯で眠るように逝けるのよ。あなたはお母さんの元へ行きたいと言っていたじゃない。年がら年中、山にも登って」
確かに、ウノは時間を作っては山へと赴き、身代わりとなった母親が亡くなった祭壇に行っていた。
隣の大国エレメキがトゥルンガを虎視眈々と狙っているから、山は危険だと止められても、ウノは山に行くことを止めなかった。
ウノはトウノの言葉をじっくり消化してから、一つだけ頷いた。
「いいわ。では、あなたは絶対にこんなバカげた習わしを終わらせると約束して頂戴」
「もちろんよ」
トウノは間髪入れずに嘘を吐く。
ウノには生贄の代理になるための大義が必要だから、優しい嘘を吐く。
トウノには生贄の習慣をやめることなど全く頭にはないけれど。
もし聖家でなくなったら、もう贅沢な暮らしは出来っこない。
だから生贄の慣習は守らねばならないのというのが聖家の家訓なのだから。
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