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ウノは色の濃い更紗のベールを被り、体の線が分からなくなるトゥルンガの衣装に身を包んでいた。 ベール越しでも分かるほど、梅の木からは甘い特有の香りが漂っている。 山の季節は少しだけトゥルンガよりも遅れる。 もう少し待てばこの山も若葉を付けた木々に覆われ、麓のトゥルンガのように華やいだ季節になるだろう。 しかし、ウノはそれを見ることなく、石の祭壇へと連れていかれる。 生贄が捧げられると祭壇の間は一年ほど扉が閉められることになっていた。 外からしか開けることのできない扉。 山の神が迎えに来るまで、生贄が逃げられないようになっているのだ。 ウノは祭壇に入る前、振り返ってベール越しに小さな国であるトゥルンガを見渡した。 山の上から見渡せる程の小さな国。 きっとこのどこかにトウノが居て、密かに子作りに励んでいるのだろう、と。 ウノもトウノも歳は十八。 片や生贄の身代わりで母を失い、今まさに自分も……。 片や贅沢の限りを尽くし、我儘ばかりをいって、職務とも言える役割すら放棄している。 そう理不尽なのは、この習わしのせい。 私がこの習わしをやめさせる。 これ以上、聖家の為に死人を出さぬように。 ウノは強い決意を持って、顔を上げた。 そして、兵士に促され、扉が閉められてしまったら明かりすら入ってこない、石造りの祭壇の間へと入っていった。
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