記憶

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 怪しく光る瞳が白鬼を見下ろした。  掌にその赤い札を載せると、それは文字の部分から蒼い炎に包まれ、ひとりでに浮き上がった。炎の呪符は金太郎に向かって飛び立つと、彼の首の後ろに張り付いた。 「うああああああ!」  金太郎の腕は元に戻り、地面に突っ伏した掌が火山灰の混じった砂を掴んだ。札の炎が悶える金太郎の背で大きく燃え上がり、咲夜のオーラと同じように立ち昇った。その炎は現実のようでもあり、ホログラムのようでもある。  白鬼がいくら目を凝らしても、その実態を探ることはできない。 「金太郎、立て。それはお主の名を書いた護符じゃ。全てを思い出せ!」 「ハイド! そんなもの、まやかしよ。五百年未来の科学の力を見せてあげて!」  その時、風が立ち、松明を次々と消して行った。土や火山灰や倒壊した寺の廃材が宙に浮く。まるで上空に吸い寄せられるように。  金太郎が憔悴しきった顔を上げ、空を見た。
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