記憶

11/11
前へ
/57ページ
次へ
 今宵は下弦の月。まだ月は出ていない。  そんな闇夜の暗さが生温く感じるほどの漆黒の穴が生まれていた。上空から吸い寄せられるように集まった雲が、下り竜のようにうねりを成し、地上に伸びたその先に、漆黒の穴が存在しているのだ。 「ああ、あれは未来に通じる穴よ。もう帰る時間だわ」  白鬼が口角を上げた。  穴には引力でもあるのだろうか。地上から吹き上げられた塵が穴の周りに集まり、バチバチとスパークしている。 「違うな。あれは鬼の穴だ。時任博士……ユキ、老けたな」  金太郎がすっくと立ち上がり、目を細める。  白鬼――いや、時任有希が歓喜の笑みを見せた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加