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今宵は下弦の月。まだ月は出ていない。
そんな闇夜の暗さが生温く感じるほどの漆黒の穴が生まれていた。上空から吸い寄せられるように集まった雲が、下り竜のようにうねりを成し、地上に伸びたその先に、漆黒の穴が存在しているのだ。
「ああ、あれは未来に通じる穴よ。もう帰る時間だわ」
白鬼が口角を上げた。
穴には引力でもあるのだろうか。地上から吹き上げられた塵が穴の周りに集まり、バチバチとスパークしている。
「違うな。あれは鬼の穴だ。時任博士……ユキ、老けたな」
金太郎がすっくと立ち上がり、目を細める。
白鬼――いや、時任有希が歓喜の笑みを見せた。
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