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第8話 客観的不幸
「でも旅するって言っても、お金とかないし、どうやって移動したらいいのかも分からないし、父さん達をみつける手掛かりを簡単に掴めるとも思えないし。」
一度腹を括ってみたものの、括ったそばから解けてしまった。旅をしている私と虫雄君の姿が全く想像できない。
「問題山済みの方が燃えてくるな!」
水を差したつもりが、火に油を注ぐ結果となってしまった。私にとっての水は虫雄君にとっての油だったようだ。
「移動は歩きでなんとかなるし、お金はいらないだろ。食べ物は現地調達で、宿は親切な人の家に泊めてもらおう。大丈夫、なんとかなるって。」
「何でそんな根拠のない自信が湧いてくるかな。不思議だよ。」
「根拠ならある。俺の直感が大丈夫って言ってる。それが根拠だ!」
虫雄君の脳みそは、ネガティブな考えにたどり着く思考回路が断絶しているのだろう。いや、そもそもネガティブな考えをする部位がないのかもしれない。生まれてから一回もネガティブな考えをしなかったら、虫雄君のような超人類が誕生するのかもしれない。
虫雄君は、きっと心理学者の実験の結果誕生したポジティブモンスターに違いない。赤ちゃんの頃に四六時中ポジティブな言葉を耳元で囁き続ける実験とか。そういう特殊な環境で育たないと絶対こうはならないと思う。
「瑠璃よ。大丈夫じゃ。ワシは少しも心配してないぞ。」
あんたは嘘でもいいから心配してくれ。
もしかしたらおじいちゃんは私を厄介払いしただけなのかもしれない。
もしかして私って、客観的にみたら物凄く不幸なのではないか。両親にはあっさり見捨てられ、馴染みがない土地、というか意味が分からない土地に連れてこられ、あげくおじいちゃんに厄介払いされようとしている。でも、不思議と不幸は感じていない。たぶん、あのぶっとんだ両親の血を私も受け継いでいるのだろう。虫雄君のことを言えないな。
客観的な不幸というものは大して意味がないなと思う。幸福というものはとても主観的なものだ。
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